秘密のチョコレート

はじめに

 閲覧ありがとうございます。

 こちらは第十回文学フリマ大阪の特設ページになっています。第一章は文学フリマ大阪にて無料配布していましたが、読みたい方がいらっしゃいましたらこちらからお読みいただければ幸いです。

第二章
 地獄の世界

「栞菜、早く起きないと遅刻するわよ」
 意識を取り戻した時、私は布団の中だった。お母さんのいつもの声。あの骸骨の声とは違う、明るくうるさい声。いつも通りの朝だ。声はいつも通りだが、まだ骸骨じゃないかと怖いので、パジャマのまま、恐る恐る階段を下る。廊下をゆっくり歩き、チラッと壁に張り付いたまま、お母さんを見る。まるでスパイのような感覚。お母さんは、骸骨ではなかった。いつもの三段腹に二重アゴのふっくら、否、デブのお母さんが洗い物をしていた。お父さんはもう仕事で居ないのだろう。机の上にはいつもの食パンに目玉焼き。牛乳付きで置いてあった。お姉ちゃんも、もう食べ終えて行っちゃったのかな。とにかく、お母さんが普通であってくれて、本当に良かった。
「はーい」
 ホッとした私はいつも通りに朝ごはんを食べる。この姿に少しうるっときた。きっとあの骸骨は夢だったんだ。良かった本当じゃなくって。
「いってきまーす」
 お母さんが無事なら結衣もゆかりも大丈夫だろう。道行く人々も、普通の人だし、良かった。これで夢確定。まったく朝から嫌な夢を見せてくれる。バクが居たら食ってもらいたい。
 いつも通りの日々、ハゲの授業。デジャヴに思えるけど、そんなもの信じたりしないので私。
 また、下のサッカーを見つめる。授業が暇すぎてそれしかやることない。あれ?これもなんかデジャヴ?
「森田、ここ答えてみろ」

「あ、はい!・・・・・・えーっと」

 森田くんどんくさ。ここぐらい簡単に解けるじゃん。答えは‪√‬二だよ。一瞬でこれぐらい解けなきゃ。ここの学校なかなかの偏差値なんだから。
 まだ答えられない森田くんにハゲは呆れたのか座らせた。ん?また、デジャヴ?あれ?

 またハゲが黒板に数式を書いていく。そう言えば全て見覚えのある光景だ。サッカーは赤がゴール入れて勝ちで、その前に私が呼ばれて答えは五。その時私はサッカーの実況を書いていて.........。

「木枯、ここの問題を解け」
ほらきた。

「五です」

「……正解だ」

 苦味しでもかみ潰したかのように悔しそうな顔をしてハゲはまた黒板に戻った。ざまーまろ。あれ?なんで全部わかるの?ここで授業が終わっ

「キーンコーンカーンコーン」

た。
 私は幽霊とか信じないタイプだけど、流石にこれは気持ち悪い。この後に結衣とゆかりが来て。
「ハゲウザかったねー。てか栞菜指されてたじゃーん」
結衣が前に座る。デジャヴ。ゆかりがそばに来る。デジャヴ。昨日体験したことがなんで今?流石におかしい。

「ごめん、なんだけど、今日って何日?」

「えー、今日は十一月十一日じゃん。どぉしたのぉ?」

ゆかりと結衣が不思議そうに見つめている。あれ、私の知っている十一月十一日は昨日のはずなんだけど、あ、夢か。夢だったんだ。そうだそうだ。

 でも、あまりにもリアルで知ってることが多すぎる。他愛のない話も、授業も、あの下駄箱も、クレマチスも、そして私は二人がチャリをとってくる間に桜のチョコレートを食べることも。
 あ、それでも、桜のチョコレートの色が違ったような。夢の中では白だった。今日は赤だ。違いがあって少しホットした。よかった。また骸骨の世界とか嫌だ。まぁ、夢だったわけだけど。
 住宅が並ぶ急な坂を下って、踏切を渡り、右に曲がったスーパーの角。そこまでは二人と一緒なのだが、そこからは、私一人になる。あと少しで遮断機。丁度渡ろうとしていた時、カンカンカンと遮断機がなり始め、下に遮断棒がおりてくる。矢印の転倒が左右ついているので、きっと、今回は長いんだろうな。
 パーッと電車が通っていく。あと一つ。遮断機の音がうるさいので二人とも無言。私も無言。まぁ、電車なんで通ったらおわりなんだから、別に格別話したいことないし。ぽーっと通り過ぎていく電車を見て、遮断機の音が止むのを待つ。
 遮断機の音が成り終わると共に何か水っぼいものが両側から私に降り掛かってきた。遮断棒が上がっていく。チャリのガッシャーンって倒れる音がなる。



 え?
 私は結衣を見た。


 首から上が無くなっていた。ドシャッと倒れる結衣だったもの。え?なんで?どうして?驚愕と疑問がごっちゃになる。だって、あんな元気だったのに。なんで?
 呆然と結衣だったものを見ていた私に、もう片側からドシャッという音が聞こえた。

 まさか。


 結衣の反対を見た。首から上が無くなっていたゆかりだったものが人間にはありえない角度で捻り、曲がり、倒れていた。


え?




え?




え?




な、ん、で、?




 訳わかんなくなって私は走った。誰がどう見てもあれは死骸だ。電車に巻き込まれた?ありえない。遮断機より後ろにいたし、縄を使った?とか?ありえない。そんなことあっていいわけない。しかもなんで私だけ助かったの?
 私は全力で走った。息苦しい。でも早くあそこから離れたかった。友達なのに白状なのは分かってるけど、怖いの。二人の返り血が髪や制服にこびりついているのも気にならない。とにかく怖かった。街の様子を見る余裕なんてない。ただどうしたらいいのか、わかんなくなって、がむしゃらに走った。
 行き着いた場所は家だった。お母さん。お母さんならこの状況なんとかしてくれる。助けて。お母さん。家のドアを勢いよく開けた。そして血塗れのローファーを脱ぐことなく家に入った。

「お母さん!」

叫びながらドアを開ける。この時間いつも夜ご飯を作っているキッチンに、私は飛び込んで、驚愕した。



 首から上がない。人だった物がそこには倒れていたのだ。周辺には血まみれの絨毯に、血まみれの野菜たち。そこでやっと気づいた私も自分が血まみれであることに、両手にはこびり付いた血が。ウルフカットの黒髪は血で塊り、制服も血まみれ。
 私はその場でへたり混んだ。目の前が暗くなる。


 お母さん。なんで?なんでなの?



 私の意識はそこで途切れた。

第三章
 生か死か

 目覚めた時にはゆかりと結衣がいた。あれ?私、寝てたのかな?

「栞菜が寝るなんてぇ、めっずらしぃ」

「昨日夜更かしでもしてたの?」

「.........そうかもしれない」

 そう、あんなの全部、夢だったんだ。私は珍しく寝ていただけ。全部無かったこと。夢だ。最近忙しくなったから疲れてあんな夢を見ただけだ。

「次の授業は、げ、数学だ」

 数学?あれ、またなんかやな予感がする。きっと大丈夫。私のやな予感は結構あたるんだけど、今回は違うだろう。大丈夫、大丈夫。
 ゆかりの嫌そうな顔を見て、結衣がニヤニヤ笑った。ゆかりは数学が大嫌いなのだ。なんせ馬鹿だから。逆に私や、結衣は得意の方な方だ。なんでこんな簡単な数式出来ないのかわからない。

「ほらぁ、ゆかりぃ、席戻るよぉ?」

「う、うん。わかってるって!」

 結衣が、席に戻っていく。ゆかりはその姿を少し見送ってから私にこっそり、「後で教えてよね」と言って席に戻って行った。
 いつも通りの日々、ハゲの授業。デジャヴに思えるけど、そんなもの信じたりしないので私。
 下のサッカーを見つめる。授業が暇すぎてそれしかやることない。あれ?これもなんかデジャヴ?

「森田、ここ答えてみろ」

「あ、はい!・・・・・・えーっと」

 森田くんどんくさ。ここぐらい簡単に解けるじゃん。答えは‪√‬二だよ。一瞬でこれぐらい解けなきゃ。ここの学校なかなかの偏差値なんだから。
 まだ答えられない森田くんにハゲは呆れたのか座らせた。ん?また、デジャヴ?あれ?

 またハゲが黒板に数式を書いていく。そう言えば全て見覚えのある光景だ。サッカーは赤がゴール入れて勝ちで、その前に私が呼ばれて答えは五。その時私はサッカーの実況を書いていて.........。

「木枯、ここの問題を解け」
ほらきた。

「五です」

「……正解だ」

 苦味しでもかみ潰したかのように悔しそうな顔をしてハゲはまた黒板に戻った。ざまーまろ。あれ?なんで全部わかるの?ここで授業が終わった。そうだ、全部わかる。なんで?

「キーンコーンカーンコーン」


 私は幽霊とか信じないタイプだけど、流石にこれは気持ち悪い。この後に結衣とゆかりが来て。

「ハゲウザかったねー。てか栞菜指されてたじゃぁん」

 結衣が前に座る。デジャヴ。ゆかりがそばに来る。デジャヴ。夢で体験したことがなんで今?流石におかしい。デジャヴて、こんなかんじなんだろうか。私は未来予知でも出来るようになったのだろうか。

 でも、あまりにもリアルで知ってることが多すぎる。他愛のない話も、授業も、あの下駄箱も、クレマチスも、そして私は二人がチャリをとってくる間に桜のチョコレートを食べることも。
 あ、それでも、桜のチョコレートの色が違ったような。夢の中では白だった。今回青。違いがあって少しホットした。よかった。またあの世界とか嫌だ。まぁ、夢だったわけだけど。
 住宅が並ぶ急な坂を下って、右に曲がったスーパーの角。そこまでは二人と一緒なのだが、そこからは、私一人になる。今回は順調に帰れそうだ。パーッと車が通る。黒いワゴン車。

「じゃね!」

「まぁた、あしたぁー」

「うん。また


「むぐっ、」



 チャリが落ちる音が聞こえた。見えたのは一瞬。男性が五人ほど。帽子を深く被って顔なんて見えない。私の意識はここで途切れた。

 次に目覚めた時にはガタンと揺れた感覚があった。移動中なのか。逃げ出そうにも手足が動かない。二人は?と首を動かし当たりを見渡すと、車の中なのが分かった。二人はまだ目覚めてないようで、男性が手足を縛っていた。

「ふぐ、ぶが!」

何をしているの!と言ったつもりなのだけど、口に何かを押し込まれているようで上手く話せない。私の声は男性陣を振り向かせるには十分だったようで、デブの男性がニヤリと笑ったのが見えた。
 なにこれ、なんでこんなに怖いの?芋虫状態だから?結果が見えているから?私のやな予感は当たったわけだ。拉致。この先に残っているのは生か死か。


「お前本当にこうゆうの好きだよな」

「お前も好きだろ?女子高生」

「お前ほどじゃねぇよ」

 男性達の軽快な話し声が耳に響く。その間にも筋肉質の男性が結衣の足を縄で縛っている。デブの男性はゆかりの手首を。

「ふがふが!」

 私は止めさせようと声を上げたが、ここは車の中。しかも私の今の状態じゃ外は見えない。ここが何処なのかさえ分からない。幸いなのは制服を着たままであることぐらいか。

「ふがふがうるせぇな。おい、今の状態わかってんのか?」

「ふぐっ」

 髪の毛を細身の男性に掴まれて無理矢理上を向かされた。血走った目。痛い。怖い。でも私は負けたりしない。睨み返してやった。お前らなんかに負けたりするもんか。

「なんだ、その反抗的な目は!?」

「ぐぁっ!」

 思いっきり殴られた。しかも顔を。痛い。あまりの痛さに声が出る。髪の毛を掴んでいた手が私から離れた。こいつらなんなの?また殴られたらたまったもんじゃないから、必死に睨み付ける。

「こいつ、分かってねぇな!」

「一人やっちまえばわかるんじゃねぇか?」

「そうだな。こいつとか可愛くねぇしいいんじゃねえか?」

「なんか勿体無いけどいいか」

 やる?何を?男性の手が、縛り終わったゆかりに伸びる。やめろ。薄汚い手でゆかりに触るんじゃない。気持ち悪いくそ男どもが!

「せっかくだから二人とも起こすか」

「良いなそれ!」

「おい、起きろって!」

 男性が結衣とゆかりを殴った。容赦ない、手加減なんてない、全力の力で二人を殴る。

「ふがふがふが!!!」

 やめろと全力で叫ぶ。でも、男性の手は止まらない。そのうち、結衣が目覚めた。

「ぃっ、なにぃこれ?え、ゆかり!?栞菜!?ぃったぁ」

 結衣が目覚めたと同時に結衣への攻撃は止まった。良かった、幸い、二回ぐらいで結衣は目覚めたので、ボコボコって訳ではない。それに結衣は私とは別に、喋れるんだ!助けを求められる!だが、現実はそう甘くない。

「一人起きたか、じゃあ、こいつは始末していいな」

「お前らも声出したりしたらこうなるんだ。我慢しろよ?」

「え?」

 男性達はニタニタしながら私達を見ている。狭い車の中。私は一番奥で、転がされていた。口に詰められた何かから、自分の唾液がつーと流れていくのを感じた。結衣はこの狭い中、私のようにイモムシ状態で転がされてはなく、ドアに寄りかかるようにして座らされていた。未だ目を覚まさないゆかりはだらんと二シート目で横になっている。そんなゆかりに筋肉質の男性の手が伸ばされた。


「ふぐっふがふが!」

 私のイモムシの声が響く。男性太った男性が気に触ったようで、私を殴った。顔面に一発。

「ふぐふっ」

「大人しくしてろって言っただろ!?」

 鼻から何かが、伝っていくのを感じた。鼻血でも出したのかもしれない。

「おい、シートよごすなよ?」

「わかってるって」

 太った男性はすぐ近くにあったティッシュで乱暴に私の顔を拭った。そのうえ、私の鼻にティッシュを突っ込んだ。

「栞菜、これどう・・・むぐっ、」

「うるせぇんだよ。黙って見とけ」

 太った男性は私の鼻を拭ったティッシュを、あろう事か、結衣の口に突っ込んだ。私もきっと、口の中に突っ込まれているのはティッシュなんだろう。また唾液がつーと流れていった。

 筋肉質の男性の手がゆかりに伸びる。そのままぐったりとしたゆかりの首を絞めた。私は殴られるのが怖かったのと、今ある現実に声が出せなかった。結衣も目を丸くして見ている。
 ゆかりは左右にゆれ何とか筋肉質の男性から逃れようとしていたが、全て抑え込まれ、やがて動かなくなった。だらんと首が傾く。目も半目開いた状態で、瞬きをしてない。こいつ、



殺したの?



私が唖然としている間に、筋肉質の男性の手が今度は結衣に伸びる。結衣は体を捻って抵抗したが、両手足を縛られている状態じゃなかなか抵抗できない。結衣の首に手が。


私はそこで意識をうしなった。

音から想像する目から刺激を得る

 車のバック音で人は単純に“運転中”とか想像をする。そここら、どこに行ったのか?と、考えてしまう。それがどこから聞こえているのか、何の作業をしていているのか、考える。想像する。そこが面白いわ。私の文はめちゃくちゃな事が多いのだけど、そこから考えるのもまた、自由。面白いわ。想像力の欠如とよく人は言うのだけど、違うわ。想像力はいつもそこにある。考えることはいつも近くにある。それをどう噛み砕くのかは己次第。
 さあ、あなたはどう感じる?ピンポンの音、車の走り去る音。モーター音。世界は音で満ちている。私の小説には無い音で満ちあふれている。美しい青い世界。言い過ぎかしら?いいえ、私の世界は想像力で出来ている。だから問う。“あなたには何が見えましたか?”と問う。音、光、文。全てはあなたが感じた世界。私はあれ以上は書かない。その先を考えるのはあなた。それでいい。完結はその人それぞれが決めることよ。
 何を感じた?
 何を思った?
 何を想像した?

 私が貪欲にも求めるのはこれだけ。


 あなたにはどう感じ、思い、想像しましたか?




京華